前置き
作曲を仕事にする場合、1つのジャンルに特化するべきか、それとも幅広いジャンルに挑戦するべきかというのは難しい問題です。特にフリーランスで活動していると、どちらが正しいのか迷う場面も多いです。
僕はこれまで、いろいろなジャンルの音楽を作ってきました。その中で、幅広いジャンルの音楽を作れるという自信はあるものの、これといった強みがないことに昔は特に悩んでいました。今でも、特定のジャンルに特化している作曲家さんを見ると、憧れとコンプレックスを感じることがあります。しかし、幅広い経験が活きる場面も確かにあると気づきました。例えば、僕はゲーム開発のサウンド制作担当として様々なプロジェクトに携わっていますが、多種多様な場面が登場するゲームのサウンド制作においては、幅広い作曲経験が大いに役立つことを実感しています。
この記事では、僕自身の経験をもとに、1つのジャンルを極める場合と、幅広いジャンルを手掛ける場合、それぞれのメリットとデメリットを整理してみます。この問題について、僕と同様に悩んでいる方の参考になれば嬉しいです。
メリットとデメリット
1つのジャンルを極める
メリット
- 専門性の高さ 特定のジャンルにおける圧倒的な技術力が、強みとして分かりやすく伝わります。これでクライアントやファンからの信頼を得やすくなります。
- ブランド力 独自の世界観や音楽スタイルを確立することで、他の作曲家との差別化が図れます。
- 人脈の強化 ある分野で秀でると、より高い地位の人とつながれる可能性が上がります。そのような人脈から、さらに自分の能力を伸ばせる機会が生まれるかもしれません。
デメリット
- 仕事の幅が狭くなる 自分の強みを特化させるために、得意分野以外のお仕事は断らなくてはならない場面もあるかもしれません。
様々なジャンルを作る
メリット
- 幅広い仕事を受けられる どんな分野から仕事が来ても、受けられる可能性が高まります。
- サウンドディレクションに役立つ 多彩なジャンルを作曲した経験は、プロジェクト全体のサウンドをディレクションする際に役立ちます。
デメリット
- ブランド化が難しい 一貫性のない活動は、作曲家としてのアイデンティティを確立しにくいです。“なんでも作れます”という姿勢は一見魅力的ですが、クライアントにとっては具体的な依頼がしづらい場合があります。
- スキルの深掘りが難しい 幅広いジャンルを手掛けることで、それぞれのスキルが中途半端になりがちです。
どうやって自分の活動方針を決めていくか
ここからは、僕自身が自分の活動方針に迷っていた時に、その状況を打開するきっかけとなった考え方を2つ紹介します。
1. 自分のスキルを人々の役に立てる方法を考える
今の自分のスキルを基にして、人々にどのように貢献できるかを考えてみるのは大事です。僕は以前、自分の個性を表現することばかり考えていた時期がありましたが、活動が思うように進まず苦しい思いをしていました。
僕は、Xで長年自分の作品を投稿してきました。最初はオーケストラなど、生楽器を使った音楽を投稿していましたが、あまり大きな反応はありませんでした。ところが、ある日、シンセサイザー中心のピコピコした音楽を投稿してみたら、これまでにはない量のいいねやリポストがついたのです。
実は、エレクトロ音楽を作るようになったのは、その当時お仕事でいただいた依頼がきっかけでした。学習目的で取り組んだジャンルが、結果的に多くの人に自分の作品を知ってもらうきっかけになったのです。そして、それをきっかけにピコピコ音が特徴のエレクトロ音楽を中心に作るようにしてみたところ、Xでフォロワーも増えていき、同時にお仕事の依頼も徐々に増えていきました。
この経験から感じたのは、自分がやりたいことだけに固執するのではなく、誰かが求めていることにも目を向けることの大切さです。そうしたニーズに応えていくことで、結果的に自分の強みが自然と作られてくることがあるのは大きな発見でした。
2. ベースとなる強みを1つ決めて、それを中心に経験を広げていく
様々なジャンルに興味が湧いてしまう場合、その好奇心に素直に従って取り組んでみるのも一つの方法です。
ただし、作曲家としてPRする際には、わかりやすくアピールできる1つの強みを持っておくのがよさそうです。たとえば、僕の場合は「ピコピコでアップテンポな音楽」を一番の強みとしてPRしているつもりです。その強みを伝えたうえで、「必要に応じてオーケストラやジャズなどの要素も取り入れたダイナミックなサウンドデザインもできます!」というような幅広いスキルをあくまで補助としてアピールしています。
重要なのは、クライアントから「何ができるの?」と聞かれたときに、明確にわかりやすく答えられること。オーケストラを始めとするサブの経験をアピールしたい気持ちをぐっと抑え、まずは「ピコピコな音楽で作品を盛り上げることが得意です」と明確に伝えること。これにより、クライアントの中で、仕事を依頼するイメージが明確に持て、円滑なコミュニケーションにつながっていくと思います。
結論
僕は作曲家として悩みつつも試行錯誤してきた結果、自分がどうなりたいかだけでなく、「他者にどのように貢献していくのか」を考えるのも大切だという結論に至っています。
読者の皆さんの中には、もしかしたら、「自分はこうなりたい」「こういう作曲家として見られたい」といったこだわりがあるかもしれません。僕もかつて、そういった理想の作曲家像がありました(し、今でも持っています)。しかし、理想と現実があまりにもかけ離れていたため、その実現の難しさに苦しんでしまったのは事実です。
そこで、一旦、考え方をシフトチェンジしました。人々の依頼に真剣に向き合い、自分ができる範囲とこれからできるようになる範囲の中でどのように貢献できるかを考えるようにしてみました。その結果、自分ができないことを無理にやろうとする苦しさはだんだん消え、現実的な歩幅で成長していっているような実感があります。成長の実感があるので、作曲活動も楽しいです。
ということで、もし同じようなことで悩んでいる方がいたら、「自分のスキルを人々の役に立てる方法を考える」「ベースとなる強みを1つ決めて、それを中心に経験を広げていく」という2点を意識してみてはいかがでしょうか。
この考え方が、何かの助けになれば幸いです。